リスク見積もって事前対策を

民事阻喪へ波及する可能性も
絵性委員会の活用がカギに

新型コロナウイルス感為嘩百の拡大により、業務を原因として労災認定されるケ-スが出始めている。労働衛生に関するリスクアセスメントを行い、重症化しやすい労働者へ事前の対応を図っておくことや、企業利益に与えるリスクなどを見積ったうえで対策を考えることが必要になると朝長医師はいう。また、 万が一の場合の民事訴訟リスクを避けるうえで、衛生委員会による調査審議や適切な教育の実施なども求められるとしている。 (労働スタッフ 編集部)

ウイルス感染症も「労災」になる

令和2年4 月28日付け基補発0428第1号「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」1) (以下「0428通達」という) が発出され、令和2年9月9日時点で、1020件(うち、死亡に係るもの16件)の労災請求がされ、576件(うち、死亡に係るもの4件) の支給決定がされました。今回は、0428通達および関連する民事訴訟リスクを避けるために、健康管理と麟順守の両立について、説明します。

http://www.iamesnpo.org/wp-content/uploads/2020/10/リスク見積もって事前対策を(朝長医師).pdf

 

• 0428通達

0428通達における新型コロナウイルス感染症の労災補償の考え方については、「従来からの業務起因性の考え方に基づき、労働基準法施行規則別表第1の2第6号1又は5に該当するものについて、労災保険給付の対象となるもの」とされており、さらに、「その判断に際しては、本感染症の現時点における感染状況と、症状がなくとも感染を拡大させるリスクがあるという本感染症の特性にかんがみた適切な対応が必要となる」とされています。

従って、0428通達は新型コロナウイルス感染症を特別扱いして認定するという考えを示したわけではなく、不顕性感染(編集注:感染はしているが、症状が出ていない状態)という特性を持つ細菌、ウイルスなどの病原体について、感染状況を踏まえて一定の整理を示したと捉えることができます。

さらに、医療従事者等とそれ以外の労働者についても示されており、令和2年9月9日時点で、医療従事者等以外に対し75件(うち、死亡に係るもの2件)に支給決定がされています。医療以外のあらゆる事業者も、労働者の感染症に係る労働衛生対策について、さらなる徹底が必要になったといえます。

また、厚生労働省発表の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19) に係る労災認定事例」2) によると、新型コロナウイルス陽性と判定された小売店販売員のG さんについて、発症前14 日間に感染リスクが相対的に高いと考えられる業務に従事していたと認められ、私生活における感染のリスクは低いと認められました。

専門家からも、業務により感染した蓋然性が高いと認められるとの意見があり、0428通達(2の(1)のウ)に基づき、感染経路が特定されていない労働者に対して、労災補償の支給決定がされました。

そこで、労災保険給付請求の時効は、最大5年であることをかんがみるに、不顕性感染を引き起こし、一定の流行を示した感染症について、事業者や衛生担当者は労働者が労災申請する可能性を想定する必要があります。

感染症リスクはゼロにできない

•原則の感染予防対策

新型コロナウイルスに関する統計は各地で調査されているところですが、過去と比較検討が可能な調査報告はされていません。そこで、新型コロナウイルスと同様に不顕性感染の可能性が指摘されているインフルエンザにつきまして、厚生労働省健康局結核感染症課が取りまとめている「インフルエンザ流行レベルマップ(2020年第14週)」によると、2019/2020シーズン(令和元年第36週から令和2年第14週まで)の推計受診者数は役728万5000人であり、2018/2019シーズン(平成30年第36週から令和元年第20週まで)の推進受診者数役1209万9000人から、約481万4000人減少しました。

この成果は、新型コロナウイルスに対して、咳エチケットや手洗いの周知といった基本的な予防対策から、イベント中止や臨時休業の養成といった膨大なコストを費やし、事業者と労働者の精神的・社会的健康を侵害する予防対策の結果、副次的にもたらされた結果になります。この統計データは歴史的にも重要な成果であり、刮目するべきポイントは、適切な感染予防対策の効果は良い結果をもたらすという点と、膨大な予防対策コストを費やしたとしても感染症をゼロにすることはできないという点です。

労働者の感染症予防対策も同様のことがいえます。そこで、原則の感染予防対策は、適切な感染予防対策と予防対策コストのバランスをとることが必要になります。従って、「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」に示され、代表的な労働安全衛生管理手法であるリスクアセスメントが必要になります。

重症化しやすい個人を把握

・労働衛生のリスクアセスメント

リスクアセスメントは、有害性による健康障害の重篤度と、その健康障害が発生する可能性の度合いを組み合わせてリスクを見積、そのリスクの大きさに基づいて対策の優先度を決めたうえで、リスクの除去または提言の措置を検討し、その悔過を記録する一連の手法です。

労働衛生に関するリスクアセスメントのポイントは、健康障害の重篤度について、個人と組織を区別することになります。たとえば、個人については外来受診、長期間入院、時に致命的などの重篤度があり、集団については業務停止、風評被害、利益低下などの重篤度があります。個人と組織の重篤度を混合すると、優先するべき対策が明確にならず、感染症予防対策が過少または課題になってしまうおそれがあります。

リスクアセスメントを行うことによって、リスクの明確化、リスクに対する認識の共有、対策の優先順位や費用について協議・決定、残存リスクの明確化、衛生管理意識の向上をはかることができます。

個人にかかる事例として、士業事務所において、65歳以上で高血圧の基礎疾患を持つ労働者に対して、重篤度を「要入院加療」、可能性を「規程遵守し、十分に注意したとしても発生する」と評価し本人に説明しました。そこで、症状がないうちに、産業医の診療情報提供書を持参のうえで主治医を受診していただき、事前に感冒と気管支炎の頓用処方を受けることとしました。

その後、感冒症状が認められたため、主治医に確認の下、処方薬を内服し安静とすることで、適切な加療と周囲への感染拡大の防止を両立することができました。本人によると、「(感冒症状の中)医療機関を受診する負担がなく、すぐに薬を飲んで休むことができたので、楽だった」とのことでした。

風評被害や利益低下のリスクも

組織に係る事例として、タクシー事業所において、重篤度を「風評被害」、「可能性を「法令順守したとしても発生する」と評価し、職場と社内を消毒するなど、衛生管理対策と実施した対策の刑事を徹底しました。乗務員は、風用被害対策という慣れない業務を行うことになりましたが、リスクが見える化され目標が共有できたことで、一丸となって作業環境および作業の改善に努めることができました。

感染予防対策は、効果がありますが限界もあります。事業所内の対策が、必要十分なものであるか
評価し、それをしっかり記録に残しておくことが重要です。

衛生委員会で体制を協議しておく

・労災認定後の民事訴訟を避けるために

適切な感染予防対策を行ったとしても、感染症をゼロにすることができないため、事務所内発生した感染症に対して、労災申請がされることを想定しておいたほうが良いでしょう。特に、感染症を原因とした死亡災害が認められた場合、遺族補償年金、遺族特別支給金、葬祭料などで、数百万~数千万円の支給がされるため、そういった情報が広がると、労災申請はさらに増える可能性があります。

労災が認定されることは、事業者の過失とは関係ありませんが、健康障害の重篤度が高い場合は、労災認定後に民事訴訟へ波及するリスクがあります。その際、事業者責任が問われるのは、積極的な加害者でなくとも、対策すべきことをしなかった場合または担当者が行うべき対策をさせなかった場合になります。具体的には、法令義務の遵守について評価されることになります。

労働安全衛生法において、感染予防対策に係る代表的義務事項としては、体制の整備、教育の実施、健康状態に基づく必要な措置があり、その他義務や努力義務が定められています。体制の整備については、衛生管理者や産業医などの選任により責任体制の整備に加えて、衛生委員会の設置が必要になります。特に、衛生委員会では、事業者の利益向上の視点、労働者代表の感染リスク低減の視点、産業医による健康の維持増進の視点により調査審議され、さらに、議事録などを3年間保存することが義務付けられていることから、事業者が必要十分な意思決定をした重要な証拠になります。労働衛生のリスクアセスメント結果が適切であったかを評価する場にもなります。

事業者が衛生委員会の意見に基づき、適切な感染予防対策を定めても、労働者がその対策を守らなければ結果につながりません。感染症のリスクがある業務に従業員を就かせるときは、労働安全衛生規則第35条の雇入れ時などの教育に基づき適切な教育をする必要があります。教育した内容の記録保存は義務付けられていませんが、訴訟回避の視点では保存しておいたほうが良いでしょう。

健康状態に基づく必要な措置については、個人に関する労働衛生のリスクアセスメントに基づいて健康管理対策を実行することになります。特に、到死的リスクがある場合は、産業医または必要な知識を有する医師の責務で、適切な感染予防対策が講じられているかを監督するべきです。

その他の義務や努力義務事項を含めて、さまざまな順守するべき事項がありますが、感染症を完璧に防止することはできません。重要なことは、罰則付き義務、罰則なし義務、努力義務の順序で、法令順守しているかどうかを確認し、労働衛生のリスクアセスメントに基づき優先順位を付けた段階的な取り組みを行うことです。

なお、新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針に基づく業種別ガイドラインについては、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき作成されているものであり、職業別ガドラインの順守をしていることと、労働安全衛生法を順守することは全く別になりますので注意が必要です。

民事訴訟は労使双方にとって精神的・社会的に不健康になってしまいます。そういった事態が発生しないように、日ごろからの適切な折る銅衛生対策をさらに徹底してください。

医学的見地を踏まえた対策を

・作業委の誠実義務を有効活用する

感染症に係る健康管理対策については、医学的見地を無視することはできません。そこで、労働安全衛生法第13条3項に基づき、平成31年4月1日より課されることとなった産業医の誠実義務を有効活用すると良いでしょう。産業医の誠実性とは、医学情報、法令および客観的事実に基づき、事業者および労働者の身体的・精神的・社会的健康の6項目をバランス良く保護することにあります。したがって、いずれかの項目を過剰に保護し、他の項目を侵害することは、産業医として不誠実といえます。

一般的な産業医契約書では、労働安全衛生規則第14条に定める職務について契約がされているので、感染症にかかる健康管理についても十分に適用できます。契約の内容の確認とそれに基づく職責を課すことが重要です。さらに、労災や民事訴訟が発生した際に、誠実義務のあり方について水掛け論にならないように、産業医とのやり取りについては、しっかりと記録を残しておく方が良いでしょう。

 

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【参考文献】
1)基補発0428第1号「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」
https://www.mhlw.go.jp/content/000626126.pdf
2)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定事例
https://www.mhlw.go.jp/content/000647877.pdf
3)インフルエンザ流行レベルマップ(2020年第14週)
https://www.mhlw.go.jp/content/000620714.pdf
4)インフルエンザ流行レベルマップ
https://www.mhlw.go.jp/content/000509899.pdf
5)危険性又は有害性等の調査等に関する指針
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000077404.pdf

 

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